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建設業のペーパーレス化|メリットや導入手順、おすすめのツールを紹介

紙の書類管理に時間ばかり取られていませんか?

建設業では日々大量の書類が発生し、現場と事務所のやり取りが煩雑になることで「業務効率が悪い」と感じる方は少なくありません。

そこで、今回は建設業におけるペーパーレス化の背景や導入手順、メリットについて解説します。

この記事を読めばなぜ今ペーパーレス化が求められているのか、どのように取り組めばスムーズに進められるのかがわかるので、ぜひ最後まで読んで学んでください。

建設業界でペーパーレス化が求められる背景

建設業界では、深刻な人手不足や高齢化、煩雑な書類業務、さらには法改正への対応といった課題が山積しています。

これらを解決する手段として、ペーパーレス化が強く求められるようになっています。

人手不足と高齢化による業務効率の課題

建設業界では、若年層の就業者数が減少する一方で、ベテラン層の高齢化が進んでいます。

この人手不足と高齢化のダブルパンチにより、現場業務だけでなく事務処理においても業務効率が著しく低下しているのが現状です。

とくに紙ベースの書類作成や管理は時間がかかり、限られた人員で回すには非効率極まりない作業です。

加えて、ベテラン職人の引退が進む中で事務業務のノウハウも属人化しているため、新たな人材の育成も困難になっています。

こうした背景から、業務効率を劇的に向上させる手段としてペーパーレス化は注目されており、デジタル機器による業務の標準化・自動化が求められています。

書類管理の負担とコスト増加

建設業では契約書、設計図、施工報告書、安全書類など多種多様な書類が日々発生します。

これらを紙で保管・管理することは、物理的な保管スペースの確保や分類・検索の手間がかかり、管理コストの増加を招きます。

さらに、複数の現場や関係会社と連携する際、紙のやり取りではタイムラグが発生し、情報共有のスピードも著しく低下します。

紛失や誤送付といったリスクも高く、トラブルの原因にもなりかねません。

こうした背景から、建設業界ではデータベースやクラウドを活用したペーパーレスな文書管理への移行が急務となっています。

これにより、管理の効率化はもちろん、トータルのコスト削減にもつながると期待されています。

法改正と電子帳簿保存法への対応

近年、電子帳簿保存法やインボイス制度の導入により、企業には書類の電子化と保存体制の整備が義務づけられつつあります。

建設業も例外ではなく、見積書・請求書・契約書といった取引書類について、電子データでの保存が求められるケースが増えています。

2022年の改正電子帳簿保存法では、電子取引データの保存方法や要件が厳格化され、ペーパーレス対応が進んでいない企業にとっては大きな負担となっています。

また、対応が遅れることで行政指導の対象となったり、取引先からの信頼を損なう可能性もあります。

こうした法制度への対応は避けられない流れであり、ペーパーレス化の推進は業界全体にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

 

ペーパーレス化による具体的なメリット

建設業におけるペーパーレス化は、単なる「紙の削減」にとどまらず、業務効率やコスト削減、人材活用の最適化といった多方面で効果を発揮します。

以下では、現場業務と本社機能の連携、書類管理の効率化、組織の属人化解消と働き方改革という観点からペーパーレス化の実際的なメリットを解説します。

現場〜本社間の情報共有がスムーズに

建設現場と本社の情報共有は、紙書類が中心の場合、FAXや郵送によるタイムラグ、伝達ミス、書類の紛失などが頻繁に発生します。

しかし、クラウド型のシステムを活用し、ペーパーレス化を進めることで、図面・日報・工程表などの情報をリアルタイムに共有できるようになります。

たとえば、現場で撮影した写真に注釈を加えて即時に本社へ送信できるため、状況報告や意思決定が迅速化され、手戻りや遅延のリスクも大幅に軽減されます。

さらに、業務アプリを通じたタスク管理やチャット機能の活用により、現場スタッフと事務スタッフがスムーズに連携できる体制が構築され、全体の工程管理も効率化されます。

こうした即応性の高い情報共有が可能になることは、ペーパーレス化がもたらす大きな利点のひとつです。

書類保管スペースの削減と管理負担の軽減

建設業では、工事台帳、契約書、設計図、施工写真などの書類が膨大に発生し、それらを長期間保管する必要があります。

紙のまま保存する場合、倉庫や事務所に保管スペースを確保しなければならず、物理的な制約と高い維持コストが発生します。

しかし、書類をPDFやクラウド上に電子保存することで、物理的な保管スペースが不要となり、保管コストを大幅に削減できます。

また、ファイル名やタグ付けによる検索機能を活用すれば、目的の書類を短時間で見つけられるようになり、業務効率も向上します。

さらに、データは定期的にバックアップを取ることで災害リスクにも対応でき、紙のように火災や水害で一瞬にして失われることもありません。

管理負担の軽減と安全性の確保という観点でも、ペーパーレス化は極めて有効な手段です。

業務の属人化防止と働き方改革の推進

紙ベースで業務を行っていると、書類の整理や管理が担当者個人に依存しやすくなり、業務が属人化しやすい傾向にあります。

特に長年の経験に基づいた「独自のやり方」で処理されると、担当者不在時に業務が滞ったり、引き継ぎが困難になるリスクが高まります。

ペーパーレス化を進め、業務フローをシステム化・可視化することで、こうした属人化を防ぎ、誰でも同じように業務を遂行できる体制が整います。

また、ペーパーレスによってテレワークやフレックス勤務が実現しやすくなり、多様な働き方にも対応可能となります。

これは、若手人材の確保や定着にもつながり、建設業界における人手不足対策としても大きな意味を持ちます。

デジタルツールの導入により、業務の効率化と人材活用の柔軟化を同時に実現できる点は、今後の建設業にとって重要な変革と言えるでしょう。

 

建設業でのペーパーレス化導入手順

建設業でペーパーレス化を成功させるには、段階的かつ組織的なアプローチが必要です。

ここでは、業務フローの可視化からツール導入、社内定着までの具体的な手順を解説します。

現状の業務フローを可視化する

ペーパーレス化を効果的に進めるための第一歩は、自社の業務フローを正確に把握・可視化することです。

図面や契約書、現場日報、安全書類など、どの業務でどのように紙が使用されているのかを洗い出し、部署ごと・プロジェクトごとに棚卸しを行います。

この段階では、現場と本社、下請企業や取引先とのやりとりを含めた全体の流れを明確にし、紙のやりとりがボトルネックになっている箇所を特定することが重要です。

業務フローを可視化することで、ペーパーレス化の対象範囲や優先順位、改善効果を定量的に把握でき、次のステップへの土台が整います。

さらに、この作業には各部門の関係者を巻き込むことで、社内の合意形成を早め、後の定着フェーズでもスムーズな協力体制を築ける点でも意義があります。

ペーパーレス化の対象業務を選定する

可視化された業務フローをもとに、ペーパーレス化の対象業務を絞り込む必要があります。

すべての業務を一度に電子化するのは非現実的であるため、まずは効果が見込める分野や属人化が進んでいる領域、または紙のやりとりが頻繁な業務から優先的に選定するのが現実的です。

たとえば、現場日報や写真報告、安全書類などは、多くの企業で初期の電子化対象として取り組まれています。

また、受発注や請求処理といった経理業務も、電子帳簿保存法への対応が求められていることから、優先度の高い領域です。

対象業務を選定する際には、現場の業務負荷・ITリテラシー・既存システムとの連携性なども評価ポイントに加えることで、現実的なペーパーレス化計画が立案できます。

段階的にスモールスタートを切ることで、社内の混乱を最小限に抑えながら、成果を積み上げていくことができます。

ツール・システムの選定と導入

対象業務が決まったら、次に行うべきは適切なツールやシステムの選定と導入です。

ペーパーレス化に用いられるツールには、クラウド型の文書管理システム、建設業向けの業務アプリ、電子契約ツールなど多様な選択肢があります。

自社の業務内容やITスキルに合わせて、現場でも使いやすく、導入コストと運用コストのバランスが取れたものを選ぶことが重要です。

特に、建設業向けに特化したツールは、図面や写真の管理、工程の共有、帳票の自動作成機能など、業界特有のニーズに対応しているため効果的です。

また、既存の基幹システムや他社とのデータ連携が可能かどうかも、選定時の重要な検討ポイントとなります。

導入前にはトライアル期間を設け、実際に現場での操作性を検証することを推奨します。

現場の負担感を最小限にしながら、着実にシステムを定着させることが成功のカギとなります。

社内研修と運用体制の整備

どれほど優れたツールを導入しても、それを使いこなせなければペーパーレス化は定着しません。

そのため、導入後には社員全体への研修と、継続的なサポート体制の整備が不可欠です。

まずは、部門別・役職別に使用する機能や操作方法を整理し、マニュアルや動画教材などを用意したうえで、集合研修や個別レクチャーを実施します。

特にITに不慣れなベテラン社員へのフォローアップは手厚く行う必要があります。

また、現場で起こるトラブルや操作ミスに迅速に対応できる社内ヘルプデスクを設置したり、導入初期には「IT担当」などの社内窓口を明確にしておくことで混乱を防げます。

さらに、運用ルールやデータ管理のガイドラインを策定し、社員全体に浸透させることが長期的な成功のカギとなります。

ツールの導入はゴールではなく、あくまでスタートラインであることを念頭に、継続的な改善とフォローを続ける体制づくりが求められます。

ペーパーレス化に役立つ主なツール例

建設業におけるペーパーレス化を実現するためには、目的や業務内容に応じた適切なITツールの導入が不可欠です。

ここでは、実際の現場や本社業務に直結する代表的な3つのツールを紹介します。

電子契約・電子承認システム

契約書や稟議書のやり取りは、多くの建設会社で紙ベースが根強く残っている分野です。

これをデジタル化するのが「電子契約・電子承認システム」です。

たとえば、クラウドサインやDocuSign、GMOサインといった電子契約ツールを使えば、契約書の送付・押印・返送といった煩雑な作業をオンライン上で完結できます。

書類を印刷して押印し、郵送する手間や時間が省かれるだけでなく、印紙税のコスト削減やコンプライアンス強化にもつながります。

また、承認フローのデジタル化により、稟議書や発注書の社内決裁も迅速に行えるようになり、業務全体のスピード感が向上します。

システム上でログが残るため、監査対応や証跡管理も容易になります。

特に拠点間での書類やり取りが多い建設会社ほど、電子契約・承認の導入効果は大きく、紙の契約管理に悩む企業には非常に有効なツールです。

クラウド型の図面・資料管理ツール

建設業では、図面・設計書・施工要領書など多くの資料がやり取りされます。

これらの情報を紙で管理していると、現場と本社間のやり取りに時間がかかり、修正ミスや差し替えミスも起こりやすくなります。

そこで有効なのが、「クラウド型の図面・資料管理ツール」です。代表的なものに、Box、Dropbox、OneDrive、そして建設業向けのANDPADやSPIDERPLUSなどがあります。

これらのツールを活用することで、最新の図面や仕様書を現場と本社がリアルタイムで共有でき、バージョン管理も自動で行えるようになります。

ファイルにコメントや注釈を加える機能もあるため、現場での確認作業や設計者とのコミュニケーションも効率化されます。

また、アクセス権限を設定することで、関係者以外への情報漏洩も防げる仕組みが整っているのも特長です。

紙の資料を探す手間や古い図面を誤って使用するリスクを減らし、安全かつ効率的な情報共有を可能にします。

業務日報や工程管理のアプリ活用

建設現場では、日々の作業内容や進捗状況を記録する「日報」や「工程表」の運用が欠かせません。

これまでは紙ベースで記録していた企業も多いですが、今ではこれらをスマートフォンやタブレットで簡単に入力・共有できるアプリが多数登場しています。

たとえば、KANNAや現場One、建設PADなどの業務アプリを活用すれば、現場担当者がその場で日報を記録し、写真付きで本社に即時共有することができます。

こうしたアプリは、進捗管理や作業内容の可視化、勤怠情報の記録、出面(でづら)管理にも対応しており、現場と事務所の業務連携がスムーズになります。

また、工程管理アプリではガントチャート形式で工程を管理できるため、工期の遅れや前後関係の把握も簡単になります。

データは自動でクラウドに保存され、いつでもどこでも閲覧・編集が可能です。アナログ管理からの脱却により、情報の精度が高まり、報告・連絡・相談のスピードも格段に上がります。

特に多現場を同時に運営する企業にとっては、管理コストと人的ミスの削減に直結するツールです。

 

建設業のペーパーレス化で注意すべきポイント

建設業におけるペーパーレス化は、業務効率の向上やコスト削減といった大きなメリットがありますが、導入を成功させるにはいくつかの注意点があります。

現場の状況や業務の特性を無視したまま進めると、逆に混乱を招くこともあるため慎重な対応が必要です。

現場のITリテラシーに応じた導入計画

ペーパーレス化を進める際に最も重要なのが、現場スタッフのITリテラシーを的確に把握することです。

建設現場では、パソコンやスマートフォンに不慣れなベテラン職人も多く、いきなりデジタルツールを導入しても使いこなせずに現場が混乱する可能性があります。

まずは簡単な操作で使えるアプリやツールから段階的に導入し、スタッフの理解度に応じて機能を拡張していく計画が重要です。

また、操作説明やマニュアルの整備に加え、定期的なフォローアップ研修も不可欠です。

導入前にトライアル期間を設け、現場からの意見をフィードバックする体制を整えることで、現場に寄り添ったスムーズなデジタル移行が可能になります。

ITに強い若手をリーダーに据えるなど、現場の中に推進役を立てる工夫も効果的です。

紙とデジタルの併用期間の対応

完全なペーパーレス化には時間がかかるため、当面は紙とデジタルの両方が混在する「移行期間」が発生します。

この期間の対応を適切に設計しておかないと、情報の二重管理や、どちらのデータが最新なのか分からないといったトラブルが起きがちです。

たとえば、日報や図面を一部デジタル化した場合でも、紙での提出を求める取引先が存在することもあり、社内外で運用ルールを統一しにくいケースもあります。

こうした課題に対応するには、紙とデジタルのどちらを“正”とするかをあらかじめ明確に決めておく必要があります。

また、業務プロセスを一つひとつ洗い出し、段階的にデジタル化していく「移行ロードマップ」の作成が効果的です。

各部署の担当者と連携しながら、適用範囲と手順を可視化しておくことで、スムーズな定着が期待できます。

セキュリティ対策とバックアップ体制

ペーパーレス化により、社内外の重要情報がすべてデジタルで管理されるようになると、情報漏洩やデータ消失のリスクも高まります。

そのため、セキュリティ対策とバックアップ体制の整備は不可欠です。

特に建設業では、設計図面や見積書、契約書などの機密情報が日常的に扱われているため、不正アクセスやウイルス感染への備えが重要です。

クラウドサービスを利用する場合は、信頼性の高い事業者を選び、アクセス権限を部署ごと・役職ごとに細かく設定するなどの管理も必要です。

加えて、誤ってデータを削除してしまった場合に備えて、定期的なバックアップとリカバリー体制の構築も欠かせません。

万が一に備え、BCP(事業継続計画)の一環として、システムトラブル時の対応フローも事前に明文化しておくことで、安心してペーパーレス化を進められます。

セキュリティは導入後も定期的に見直し、最新のリスクに対応する姿勢が求められます。

 

まとめ

今回の記事では、建設業におけるペーパーレス化について解説しました。

導入時は現場のITリテラシーを見極め、段階的な移行とセキュリティ対策を徹底しましょう。

いきなり全てをデジタル化せず、現場の声を反映した運用が成功のカギです。