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建設業のM&Aで必須のDDとは?進め方や注意点を解説

建設業のM&Aで、DDの進め方が不安ということはありませんか?

そこで、今回は建設業におけるDD(デューデリジェンス)の基礎知識から、実施手順、建設業特有の注意点やチェック項目について解説します。

この記事を読めば、DDの全体像と効率的な進め方、リスク回避のための具体的なポイントがわかるので、ぜひ最後まで読んで学んでください。

建設業におけるDDとは

建設業におけるDD(デューデリジェンス)は、事業譲渡やM&A、プロジェクト契約時に対象企業や案件の実態を調査・評価する重要なプロセスで、対象企業や案件の財務状況、法的リスク、事業運営の健全性などを多面的に調査・分析する手続きのことです。

建設業では通常の財務・法務に加え、施工技術の水準や現場安全管理体制、環境規制の遵守状況など、業界特有の観点が加わります。

目的は、契約後に予期せぬトラブルや損失を回避するための情報基盤を整えることにあります。

また、DDの結果は取引価格の調整や契約条件の見直しにも直結します。

十分な調査を行わないと、将来的な瑕疵や訴訟リスクを抱え込む可能性があるため、専門家の関与が推奨されます。

建設業でDDが必要となる主なケース

建設業でDDが必要となる場面は多岐にわたります。

典型例は、企業買収(M&A)、事業譲渡、新規大型プロジェクトの受注、資本提携などです。

例えばM&Aでは、買収先の許認可の有効性や過去の施工不良履歴、下請業者との契約状況を確認します。

また、大規模プロジェクトでは、資金計画や工期遵守能力、必要な建設資材の調達ルートなどを事前に精査します。

公共工事を請け負う場合は、入札資格や過去の行政処分履歴も重要なチェックポイントです。

さらに、建設現場特有の労務安全体制や環境影響評価の結果も調査対象となります。

こうした事前確認により、契約後の損害発生リスクを最小化できます。

DDが不十分な場合のリスク事例

DDを十分に行わなかった場合、建設業では深刻なリスクが顕在化します。

例えば、買収後に施工許可が失効していたことが判明すれば、即座に工事停止となり、契約解除や損害賠償請求の対象になります。

また、過去の施工案件に欠陥が見つかれば、多額の補修費用や訴訟コストが発生します。

財務面では、未回収の工事代金や過大な債務負担が露呈することもあります。

さらに、環境規制違反や安全基準未達が発覚すれば、行政処分や社会的信用失墜につながります。

以下はDD不足による代表的リスクの一覧です。

リスク内容 発覚タイミング 主な影響
施工許可の失効 買収後・契約後 工事中断・契約解除
過去の施工不良 引き渡し後 補修費用・訴訟対応
環境規制違反 調査不足で契約後 行政処分・信用失墜

このように建設業におけるDDは単なる形式的調査ではなく、事業存続や収益性を左右する重大なプロセスといえます。

 

建設業DDの種類と対象領域

建設業におけるDDは、多面的な視点から企業や案件のリスクと価値を評価するため、領域ごとに専門的な調査が行われます。

主な種類は、法務・財務・技術・環境・労務安全の5つで、それぞれの分野で特有のチェック項目があります。

以下では、各DDの特徴と対象領域を詳しく解説します。

法務DD(契約書・許認可の確認)

法務DDでは、取引や事業運営に関連する契約書、登記情報、許認可の有効性を確認します。

建設業では特に、建設業法に基づく許可証や、元請・下請間の契約条件が重要です。

例えば、工期延長や追加工事に関する取り決めが不明確な契約は、将来の紛争リスクを高めます。

また、土地使用権や賃貸借契約、リース機材契約なども対象となります。法務DDの結果次第では、契約条件の再交渉や取引中止の判断が必要になることもあります。

さらに、訴訟履歴や過去の行政処分記録も調査し、将来的な法的リスクを事前に洗い出します。

財務DD(財務諸表・キャッシュフロー分析)

財務DDは、企業の経営状態を数値で可視化する工程です。

建設業では、財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)を分析し、資産の健全性や負債の状況、利益構造を把握します。

特に重要なのは、未回収の工事代金や不良債権の有無、工事保証債務の残高です。

また、長期的なキャッシュフロー分析により、将来の資金繰りリスクを予測します。

加えて、原価計算の正確性や工事別の収益率も調査対象です。

不透明な会計処理や過剰な短期借入が判明した場合、投資判断や買収価格の見直しに直結します。

技術・設備DD(施工能力・機械設備の確認)

技術・設備DDでは、施工能力や保有する建設機械・設備の状態、稼働効率を調査します。

建設業では、案件規模に応じた技術力があるか、現場管理体制が十分かを確認することが不可欠です。

また、保有機械の稼働率、メンテナンス履歴、耐用年数も重要な評価ポイントです。

さらに、技術者の資格保有状況や技能レベル、品質管理体制の有無もチェックします。

このDDで問題があれば、契約後に施工遅延や品質不良が発生するリスクが高まります。

将来の事業拡大や新規分野進出を考える際にも、この評価結果が戦略判断の基礎となります。

環境DD(法令遵守・環境影響調査)

環境DDは、企業活動が環境関連法規や条例を遵守しているか、また事業が環境に与える影響を評価する調査です。

建設業では、大気汚染防止法や廃棄物処理法、水質汚濁防止法などの遵守状況を確認します。

また、過去の建設現場で発生した土壌汚染やアスベスト使用の有無も調査対象です。

環境影響評価(EIA)が必要な大規模工事の場合、その結果や対応状況も重要です。

違反や未対応事項があれば、行政処分や損害賠償、社会的信用の失墜につながるため、投資や契約の可否に直結します。

労務・安全管理DD(労働環境・安全基準の遵守)

労務・安全管理DDでは、労働基準法や労働安全衛生法などの遵守状況を確認します。

建設業は労災リスクが高く、安全管理体制や労働環境の整備状況が重要です。

例えば、安全管理マニュアルの有無、安全教育の実施記録、現場の安全設備の整備状況などが調査対象です。

また、長時間労働や未払い残業代の有無、社会保険加入率も確認します。

これらが不十分な場合、労災事故や労務トラブルが発生し、損害賠償や工期遅延の原因となります。

健全な労務・安全管理体制は、企業価値を高める重要な要素です。

 

建設業DDの進め方と流れ

建設業におけるDD(デューデリジェンス)は、計画的な手順に沿って進めることで精度と信頼性を確保できます。

一般的には、事前準備から調査実施、分析・評価、報告書作成と改善提案までの4段階で構成されます。

各工程を明確に進めることで、リスクの見落としや判断の誤りを防ぎます。

事前準備(情報収集・対象範囲の決定)

DDの第一歩は、調査の目的と対象範囲を明確にすることです。

建設業では、対象企業やプロジェクトの概要を把握し、必要な資料やデータを事前にリストアップします。

例えば、契約書、財務諸表、許認可証明、技術資料、安全管理マニュアルなどが該当します。

ここで重要なのは、調査範囲を広く取りすぎないことです。

範囲が曖昧だと、調査が長期化しコストも増大します。

また、利害関係者との事前ヒアリングを行い、特に重点的に確認すべき領域を特定します。

この準備段階の精度が、その後の調査効率と成果の質を大きく左右します。

調査実施(現地調査・資料精査)

調査段階では、事前準備で収集した資料の精査と、現場での実地確認を行います。

資料精査では、契約条件の妥当性や財務データの整合性をチェックします。

現地調査では、施工現場の安全管理、工程の進捗、設備の状態、作業員の労働環境を直接確認します。

また、実務担当者や管理職へのヒアリングを通じて、書類だけでは把握できない実態を把握します。

特に建設業では、現場の実情が机上の資料と乖離しているケースも多く、現地調査は必須です。

調査結果は逐次記録し、後の分析フェーズで活用できるよう整理しておきます。

分析・評価(リスク評価・価値算定)

分析・評価の段階では、調査結果をもとにリスクの特定と重要度の判定、そして対象の価値算定を行います。

建設業の場合、法務リスク(契約不備・許認可の欠落)、財務リスク(債務超過・資金繰り不安)、技術リスク(施工能力不足)、環境リスク(法令違反・汚染問題)、労務リスク(安全基準未遵守)など、多様な要因を総合的に評価します。

価値算定では、将来の収益予測や保有資産の実質価値を数値化し、投資判断や契約条件の調整に活用します。

この段階で評価が甘いと、後に想定外の損失が発生する可能性があるため、専門家の意見を交えて慎重に進めます。

報告書作成と改善提案

最終段階は、分析結果を報告書としてまとめ、必要に応じて改善提案を行う工程です。

報告書には、調査の概要、確認事項、リスクの一覧、リスク低減のための提案、最終的な評価結論を明記します。

建設業のDDでは、現場改善の提案や契約条件の修正案、設備更新計画など、実行可能なアクションプランを添えることが重要です。

また、関係者が理解しやすいよう、図表や写真を用いて視覚的に説明します。

報告書は単なる調査結果の記録ではなく、将来の意思決定を後押しする戦略的ツールとして機能させることが求められます。

 

DD実施時のチェックリスト

建設業でのDD(デューデリジェンス)では、業界特有の法的要件や現場管理体制、環境対応状況などを多角的に確認する必要があります。

ここでは、実務・技術・安全・環境面を網羅し、リスクを見落とさないための実務的な指針となるチェックリストを紹介します。

建築確認・施工許可の有効性

建築確認申請や施工許可は、建設プロジェクトの適法性を担保する重要な要素です。

DDの際は、発行元、発行日、有効期限、許可条件を確認し、対象工事が適正に許可を受けているかを検証します。

また、許可条件の変更履歴や更新手続きの有無も重要です。特に大型建築や公共工事では、複数の許可が必要な場合があり、その一つでも無効であれば工事停止や契約解除のリスクが発生します。

さらに、建築基準法や都市計画法との整合性も調査し、違反の可能性がないかを確認します。

この段階での不備発見は、後の損失回避に直結します。

施工中案件の進捗と契約条件

施工中案件については、工程表と実際の進捗を比較し、遅延やコスト超過の兆候がないかを確認します。

進捗遅延は契約違反や追加費用の発生につながるため、原因分析も不可欠です。

また、契約条件の中で特に注意すべきは、納期、支払条件、遅延損害金、品質保証期間などです。

DDでは、これら条件が現場実態に合致しているかを検証し、履行不能のリスクを早期に把握します。

必要に応じて、発注者や元請業者とのやり取り記録を精査し、契約条項の曖昧さや不利な条件がないかも確認します。

下請け業者との契約状況

建設業では下請け業者との関係が工事品質や納期に直結します。

DDでは、下請契約の締結状況、契約条件、支払い状況、業務範囲を確認します。

また、建設業法に基づく下請代金支払遅延防止法の遵守状況も重要です。

特に多層下請構造の場合、情報伝達の遅れや品質管理の不徹底が発生しやすく、施工不良や事故の原因となります。

下請業者の経営状態や過去のトラブル履歴も把握することで、潜在的なリスクを予防できます。

さらに、特定技能実習生など外国人労働者を雇用している場合は、労働条件の適正性や在留資格の確認も必要です。

安全衛生管理体制

建設業は労働災害の発生率が高く、安全衛生管理はDDの重点確認項目です。

安全管理責任者の配置状況、安全衛生計画書、KY活動(危険予知活動)の記録、定期的な安全パトロールの実施状況などをチェックします。

また、過去数年間の労働災害発生件数とその原因、是正措置の実施履歴を確認し、再発防止策が機能しているかを評価します。

さらに、作業員の安全教育や資格保有状況も重要で、特に高所作業や重機操作などの危険作業では資格不保持による事故リスクが高まります。

環境規制や地域条例の遵守状況

建設業では、環境保全に関する法令遵守も必須です。

騒音規制法、振動規制法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの遵守状況を確認します。

また、地域ごとの条例や景観保護規制に違反していないかも重要な確認事項です。

例えば、特定地域では工事時間帯や使用資材に制限があり、違反すると罰金や工事差し止めとなる可能性があります。

さらに、産業廃棄物の処理方法やマニフェスト管理の適正性もチェックし、処理業者が許可を持っているかを確認します。

環境規制違反は企業イメージの毀損にも直結するため、事前把握が不可欠です。

 

建設業DDでの注意点と成功のコツ

建設業のDD(デューデリジェンス)は、一般的な企業調査と比べて現場特有のリスクや法規制の確認が必要です。

成功するためには、調査体制、情報収集の方法、企業文化へのアプローチ、そして調査結果の戦略活用までを一貫して設計することが欠かせません。

ここでは、建設業におけるDDでの注意点と成功のコツを解説します。

専門家チームの編成

建設業のDDでは、多方面の知識が必要となるため、法務、財務、技術、安全、環境の各分野から専門家を集めたチーム編成が重要です。

例えば、建築基準法や都市計画法に精通した弁護士、工事現場の品質評価ができる一級建築士、安全管理の専門家、そして建設業特有の財務構造を理解する会計士が必要となります。

さらに、現地調査のためには、現場の状況を即座に判断できる経験豊富な施工管理士の同行が有効です。

チーム編成段階で役割分担を明確化し、調査項目ごとに責任者を設定することで、調査の抜け漏れを防ぎ、効率的に情報を集めることができます。

現場担当者へのヒアリング方法

現場担当者からのヒアリングは、書類やデータだけでは把握できない実態を掴む重要な手段です。

質問は事前に整理し、工程管理、安全管理、下請け業者との関係、トラブル対応履歴など、具体的かつ現場目線の項目を含めることが必要です。

また、形式的なインタビューではなく、信頼関係を構築しながら会話形式で行うことで、表に出にくい問題や改善余地が浮かび上がります。

加えて、複数の担当者から同じテーマをヒアリングし、情報の一貫性や矛盾点をチェックすることで、より正確な現場の全体像を把握できます。

細部まで確認する文化を浸透させる

DDの成果は、調査する側だけでなく、対象企業が細部への注意を習慣化しているかにも左右されます。

書類の整備状況、現場の安全掲示、施工記録の一貫性、契約書の保管方法など、細部の管理状況は組織のリスク耐性を反映します。

調査の場では「なぜこの手順を踏んでいるのか」「誰が承認しているのか」といったプロセスにも着目し、業務フローの改善点を明らかにします。

さらに、DD後には改善提案を提示し、社内に「細部まで確認する文化」を定着させることで、将来的なリスク低減と業務効率向上につながります。

結果を経営戦略にどう活かすか

DDは単なるリスク発見のための作業ではなく、経営戦略の精度を高めるための重要な情報源です。

調査で得られた情報をもとに、事業ポートフォリオの見直し、資本投下の優先順位決定、提携・M&A戦略の修正などに反映させます。

例えば、特定の地域で環境規制が厳しい場合には、その市場への参入戦略を再検討する必要があります。

また、施工管理体制が優れている現場は新規事業のモデルケースとして活用でき、逆に課題が多い現場は改善プロジェクトの重点対象とすることが可能です。

結果の活用を経営判断に直結させることで、DDの投資対効果を最大化できます。

 

DD後のアクションと改善策

建設業におけるDD完了後は、調査結果を基に契約条件の再検討や業務改善計画の策定、リスク低減の具体施策を実行する段階に入ります。

ここでは、DD後に行うべき3つのアクションについて解説します。

契約条件の見直し

DDによって発見されたリスクや不利な条件は、速やかに契約内容へ反映させる必要があります。

特に建設業では、工期遅延時の違約金、材料費高騰時の価格調整条項、下請け契約の解除条件などが重要なポイントです。

また、契約書に記載されていない慣行的な取り決めが存在する場合、それらを明文化し、双方の認識を一致させることがトラブル防止につながります。

さらに、将来の法改正や市場変動に対応できる柔軟な条項を盛り込み、契約の持続可能性を確保します。

契約条件見直しの際には、法務担当や外部の専門家を交え、リスク低減と取引の安定性を両立させることが不可欠です。

業務改善計画の策定

DDで明らかになった課題や非効率なプロセスは、業務改善計画として体系的に整理します。

建設業では、安全管理体制の強化、工程管理の精度向上、情報共有の迅速化が代表的な改善テーマです。

改善計画の策定時には、短期・中期・長期の時間軸で施策を分類し、優先度を設定します。

例えば、短期的には現場巡回頻度の増加や報告書フォーマットの統一、中期的には新しい施工管理システムの導入、長期的には人材育成プログラムの刷新が挙げられます。

また、改善計画は経営層だけでなく現場担当者とも共有し、実行可能性を高めるための意見を反映させることが重要です。

リスク低減施策の実施

DDで特定したリスクは、早期に低減施策を実行することで将来の損失を防ぎます。

建設業では、法規制違反や安全管理不備、下請け契約の不透明さなどが重大リスクとなります。

これらに対しては、定期的な法令遵守チェック、第三者機関による安全監査、契約書の透明化といった具体策が有効です。

また、自然災害や資材供給不足といった外部リスクに備えて、代替資材の調達ルート確保や非常時対応マニュアルの策定も欠かせません。

施策の効果は定期的に評価し、必要に応じて改善・追加することで、リスク管理の質を継続的に向上させることができます。

 

まとめ

今回の記事では、建設業におけるDDについて解説しました。

DD後は契約条件や業務フローを見直し、リスク低減策を迅速に実行しましょう。

継続的な改善こそが企業価値向上の鍵です。

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