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建設業におけるVEとは?CDとの違いや活用方法を解説

建設業におけるVEとCDの違いのアイキャッチ

建設業でのコスト削減や品質向上を考えるとき、必ず出てくるのが「VE(バリューエンジニアリング)」と「CD(コストダウン)」です。

そこで今回は、建設業におけるVEとは何か、CDとの違い、そして実際の活用事例をわかりやすく解説します。

VE(バリューエンジニアリング)とは

VE(バリューエンジニアリング)とは、製品やサービスが持つ機能や品質を維持、または向上させながら、コストを最適化するための体系的な手法です。

単なるコスト削減策ではなく、「価値」を重視する点が特徴です。

この価値は、機能、品質、耐久性、使いやすさなど、多角的に評価されます。

建設業でのVEでは、建物やインフラが持つ本来の目的や利用価値を損なわないようにしつつ、設計・施工プロセスに改善案を導入します。

例えば、構造材の配置見直しによる材料削減や、設備方式の最適化による維持費の削減などが挙げられます。

重要なのは、単純なコストカットではなく、発注者や利用者が求める本質的な価値を保ち、さらに可能であれば向上させることです。

このアプローチにより、短期的な工事費削減だけでなく、長期的なランニングコスト削減にもつながります。

 

CD(コストダウン)とは

CD(コストダウン)とは、主に機能や品質の一部を削減・簡素化することでコストを抑える手法です。

建築物や構造物の品質や性能を意図的に削減し、その分のコストを抑えることを目的としています。

たとえば、外装材を安価な代替品に変更する、仕上げ工程を簡略化する、機能性の低い設備へ置き換えるといった施策が代表例です。

この方法は、短期的な工事費削減には即効性があり、予算オーバーの緊急対策としても採用されやすいです。

ただし、耐久性や快適性、メンテナンス性が低下する可能性があり、長期的には修繕費や更新費用が増加するリスクがあります。

そのため、安易な採用は建物全体のライフサイクルコストを押し上げることにつながりかねません。

したがって、建設業におけるコストダウンは、短期的メリットと長期的デメリットを比較検討した上で判断することが求められます。

 

VEとCDの違い

VEとCDはいずれもコスト削減を目的とする手法ですが、その考え方や実行方法は大きく異なります。

VEは価値を維持・向上しながらコストを最適化するのに対し、CDは機能や品質を下げて直接的にコストを削減します。

建設業では、案件の目的や使用期間、予算条件によって両者を適切に使い分けることが重要です。

メリット・デメリット

VEとCDには、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。

VEのメリットは、長期的なライフサイクルコストの削減や利用者満足度の維持が可能な点です。

デメリットとしては、検討や設計の見直しに時間と労力がかかることがあります。

CDのメリットは、短期間で確実にコストを削減できることです。特に予算超過時の緊急対応には有効です。ただし、品質低下による維持費増加や建物寿命の短縮、利用者からの不満といったリスクがあります。下表に主なポイントをまとめます。

手法 メリット デメリット
VE 品質維持・向上、長期的なコスト削減 検討時間が長く、初期費用が増える場合あり
CD 短期間でのコスト削減、即効性 品質低下、長期的コスト増加の可能性

建設業における使い分けの重要性

建設業においてVEとCDを使い分けることは、品質とコストのバランスを最適化するために不可欠です。

長期使用や高耐久性が求められる公共施設や商業ビルでは、VEによる品質維持を重視した最適化が適しています。

一方、仮設建築物や短期利用が前提の施設では、一定の品質低下を許容したCDも選択肢になります。

ただし、CDを採用する場合でも、安全性や法的基準を満たすことは絶対条件です。

発注者・設計者・施工者が共通認識を持ち、目的に応じた手法選択を行うことで、予算内に収めつつ価値の高い建物を実現できます。

適切な判断を下すためには、ライフサイクル全体のコスト評価と利用目的の明確化が欠かせません。

 

建設業におけるVE導入の活用方法

建設業におけるVE提案は、プロジェクトの進行段階ごとに目的や効果が異なります。

基本計画段階から施工段階まで、各フェーズでの適用方法を理解することで、品質を保ちながらコストを最適化できます。

以下では、各段階ごとの活用方法を具体的に解説します。

基本計画段階のVE(大幅コスト削減の可能性)

基本計画段階でのVEは、最も大きなコスト削減効果を期待できるタイミングです。

この段階では、建物の規模、構造形式、主要設備、材料の選定といった根本的な要素がまだ固定されていないため、抜本的な改善提案が可能です。

たとえば、構造方式を鉄筋コンクリート造から鉄骨造に変更することで、施工期間を短縮しつつコストを減らすことができます。

また、建物のレイアウトを見直して動線を簡略化することで、延床面積を削減し、工事費だけでなく将来的な維持管理コストも抑えられます。

このフェーズでは、建築主・設計者・施工者が早期から情報共有し、幅広い選択肢を比較検討することが成功の鍵となります。

VEによる方向性の決定は、その後の全工程に影響を及ぼすため、戦略的な判断が重要です。

基本設計・実施設計段階のVE

基本設計や実施設計の段階では、建物の機能や外観、主要設備がほぼ固まりつつあります。

この時点でのVEは、仕様や材料、設備機器の選定を見直し、コスト削減と性能維持の両立を目指します。

例えば、同等性能で耐久性の高い代替材料を採用する、空調システムの容量を最適化する、共用部の仕上げ材をコスト効率の良いものに変更する、といった提案が挙げられます。

この段階では設計変更に伴う再計算や構造検討が必要になることもあり、影響範囲を慎重に評価する必要があります。

また、予算調整が必要な場合でも、利用者の快適性や安全性を損なわないよう、設計者と施工者が連携して提案を精査することが求められます。

結果として、ライフサイクルコストを含めた総合的なコスト最適化が可能となります。

施工者選定段階のVE

施工者選定段階でのVEは、入札や契約交渉の過程で活用されます。

施工者が持つ独自の施工ノウハウや仕入れルートを活かし、同等品質を確保しながらコストを下げる提案を引き出すことが狙いです。

例えば、特定の建材を大量購入することで単価を下げる、現場での組立効率を高める工法を採用する、物流計画を最適化して搬入コストを削減するといった事例があります。

このフェーズでは、複数の施工者からVE提案を受け、比較表を作成して評価することが効果的です。

価格だけでなく、品質、施工期間、安全性、維持管理の容易さといった要素も同時に評価することで、長期的なメリットを最大化できます。

発注者としては、コスト削減額だけに注目するのではなく、提案の実現性や将来のリスクも踏まえて選定することが重要です。

施工段階でのVE(変更対応としての活用)

施工段階でのVEは、予期せぬ変更や現場状況の変化に対応するために活用されます。

このタイミングでは、すでに設計や仕様が確定しているため、大幅な変更は難しい場合が多いですが、それでも工法や材料、工程の調整によってコストや工期の改善が可能です。

例えば、資材価格の急騰に対して代替材料を提案する、施工手順を変更して作業効率を上げる、設備の一部仕様を変更して納期短縮を図るといった事例があります。

また、この段階でのVEは、コスト削減だけでなく安全性や施工品質の確保を重視する必要があります。

現場監督や各工種の職長が主体的に提案を行い、発注者や設計者と迅速に協議することで、工事全体への影響を最小限に抑えることが可能です。

適切な現場VEは、トラブル回避や最終的な顧客満足度向上にも直結します。

 

建設業におけるCD提案の注意点

建設業でのCD(コストダウン)提案は、予算圧縮や利益確保に有効な手段ですが、短期的な削減効果だけを追求すると品質低下や将来の修繕コスト増につながる危険があります。

ここでは、CD提案を行う際に押さえておくべき重要な注意点を3つの視点から解説します。

品質低下リスクの見極め

CD提案の最大の落とし穴は、コスト削減によって建物の品質が損なわれることです。

材料や設備のグレードを下げる提案は一時的には効果的ですが、耐久性や安全性の低下、将来的な修繕費の増加を招く可能性があります。

例えば、外壁仕上げを安価な素材に変更した結果、5年後に補修が必要となり、当初の削減額を上回る費用が発生するケースがあります。

また、構造部材の品質低下は建物全体の寿命に直結し、資産価値の低下を招く恐れもあります。

したがって、CD提案の段階では、材料や工法の変更が耐用年数や性能に与える影響を正確に評価し、発注者へリスクを明確に提示することが不可欠です。

品質とコストのバランスを保つためには、設計者・施工者・発注者の三者が協議し、削減効果と長期的影響を総合的に判断する必要があります。

機能過剰スペックの場合の適正化

一方で、建設プロジェクトでは過剰な機能やスペックが盛り込まれているケースも少なくありません。

このような場合、性能を必要十分な水準に見直すことで、品質を損なわずにコスト削減を実現できます。

例えば、過剰な耐荷重を設定した床構造を標準仕様に変更する、使用頻度の低い高機能設備をよりシンプルな機種に置き換える、といったアプローチです。

適正化を行うには、施設の利用目的や使用頻度、想定耐用年数を踏まえた機能分析が必要です。

ここで重要なのは、発注者の要望を正しく理解した上で、過剰な仕様が本当に必要かどうかを丁寧に説明することです。

過剰スペックの是正は、単なるコスト削減にとどまらず、施工後のメンテナンス負担軽減や運用効率化にもつながります。

そのため、機能分析とコスト評価をセットで行うことが理想です。

長期的なコストバランスの視点

CD提案は、短期的な建設コストだけでなく、ライフサイクル全体でのコストバランスを考慮する必要があります。

初期投資を削減しても、維持管理や光熱費が増加すれば、長期的には総コストが高くなる可能性があります。

例えば、安価な断熱材を採用すると初期費用は抑えられますが、冷暖房費が増加し、10年単位で見ると大きな支出超過となることがあります。

また、メンテナンスが困難な材料や工法を採用すると、将来的な補修費用が大きく膨らみます。

そのため、CD提案の評価では、建設費用、運用コスト、維持管理費を含めた「総所有コスト(TCO)」を基準に判断することが重要です。

さらに、環境性能や省エネルギー性能を考慮することで、長期的な経済性と社会的価値の両立が可能となります。

結果として、発注者にとって真にメリットのある提案となります。

 

建設業でVE・CDを成功させるポイント

建設業におけるVE(バリューエンジニアリング)とCD(コストダウン)の成功には、プロジェクト初期からの計画性と関係者間の連携が不可欠です。

ここでは、効果的な実施のために押さえておくべき4つの重要ポイントを解説します。

初期段階での検討が効果的

VEやCDの効果を最大化するためには、計画の初期段階から検討を開始することが重要です。

特に基本計画や基本設計の段階では、建物の構造や仕様がまだ固定されていないため、柔軟に代替案を検討できます。

この段階での提案は、設計変更や仕様調整による影響範囲が大きく、結果として大幅なコスト削減や価値向上が可能です。

一方、施工段階に入ってからの変更は、工事進捗や発注済み資材への影響が大きく、追加費用や工期延長を招くリスクがあります。

そのため、VE・CDの検討は「早ければ早いほど効果的」という意識を持つことが大切です。

また、初期段階で複数の選択肢を比較検討することで、コストと品質の最適なバランスを確保できます。

施工会社の技術力を活用

施工会社は現場経験や最新の施工技術に精通しており、VEやCDの実現において貴重な知見を提供できます。

例えば、施工方法の工夫や材料の選定変更によって、品質を維持しつつコスト削減を図ることが可能です。

また、過去の類似案件での成功事例や失敗事例を参考にすることで、実現性の高い提案が期待できます。

発注者や設計者が施工会社と早期に連携を取り、情報を共有することで、単なる机上の理論ではなく、現場で実行可能なVE・CD案を構築できます。

さらに、施工会社は調達ネットワークや資材の市場価格動向にも詳しいため、資材コストの適正化にも貢献します。

このように、施工会社の技術力と経験を戦略的に活用することが、提案の成功確率を高める鍵となります。

ランニングコストも考慮

VEやCDの検討においては、建設費だけでなく、運用・維持管理にかかるランニングコストも重要な判断基準です。

例えば、初期費用を抑えるために安価な設備を導入しても、エネルギー効率が低ければ光熱費が増加し、長期的には総コストが高くなることがあります。

また、耐久性の低い材料を選んだ場合、頻繁な修繕や交換が必要となり、メンテナンスコストがかさみます。

これを防ぐためには、ライフサイクルコスト(LCC)という視点で評価を行い、長期的に見て経済的かつ持続可能な選択を行うことが求められます。

さらに、省エネ性能や環境負荷低減を考慮した仕様は、将来的な規制対応や補助金活用の面でもメリットがあります。

短期的なコスト削減だけにとらわれず、運用期間全体での最適解を目指す姿勢が必要です。

専門家(PM/CM会社)の起用

VEやCDを成功させるには、専門的な知識と中立的な立場からの判断ができる人材の存在が有効です。

PM(プロジェクトマネージャー)やCM(コンストラクションマネージャー)会社は、設計・施工・コスト管理の全プロセスに精通しており、発注者の利益を最大化するための調整役を担います。

これらの専門家は、多数のプロジェクト経験を通じて培ったノウハウを活かし、品質・コスト・工期の最適化を実現します。

また、発注者と施工者の間で発生しがちな意見の相違や情報不足を解消し、透明性の高い意思決定を支援します。

さらに、第三者的な視点から提案内容を評価することで、短期的なコスト削減に偏らないバランスの取れた計画を構築できます。

特に大型案件や複雑な建築計画では、専門家の関与が成功の大きな要因となります。

 

まとめ

今回の記事では、建設業のVEについて解説しました。

VEを成功させるには、早期検討と関係者間の連携が不可欠です。

コストと品質の最適化を意識し、専門家の助言を活用して行動に移しましょう。

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