外注

建設業における外注と内製化|現場監督・設計業務の判断基準と戦略を解説

建設業における外注と内製化のアイキャッチ

「現場監督を外注するか内製するか迷っている」ということはありませんか?

そこで、今回は建設業における「外注」と「内製」の使い分け方と判断基準について解説します。

この記事を読めば現場監督や設計業務をどこまで自社で担い、どこから外注すべきかが明確になり、コスト・品質・人材不足といった課題への対応策がわかるので、ぜひ最後まで読んで学んでください。

建設業界で進む「外注」と「内製化」の流れとは?

建設業界では、慢性的な人手不足や高齢化、インボイス制度への対応といった社会的な変化により、業務の「外注」と「内製化」の見直しが加速しています。

特に、現場監督や設計などの中核業務については、外部委託と自社対応のどちらが合理的か、経営判断が問われる場面が増えているのが現状です。

人手不足と制度改革が見直しのきっかけに

建設業界が「外注か内製か」の判断に迫られる背景として、最大の要因が深刻な人手不足です。

若年層の入職者が減少し、ベテラン職人の引退が進む中で、社内の人材だけではすべての業務をこなすことが難しくなっています。

さらに、2023年のインボイス制度導入により、従来の一人親方や非課税事業者が請け負いにくくなり、外注先の確保自体が困難になった企業もあります。

このような社会的変化は、業務の見直しを余儀なくするトリガーとなりました。

とりわけ施工や設計などの基幹業務については、品質や納期の安定化を求める声が強まる中で、「外注に頼りきるのではなく、一定部分は内製化すべきではないか」という考えが企業内で浸透し始めています。

外注化は柔軟なリソース確保が可能な反面、ノウハウが社内に蓄積されず、人材の流動性に左右されるという課題も無視できません。

一方で、内製化を進めれば人材の育成や社内スキルの強化につながるものの、採用や教育、管理にかかるコストと時間は決して小さくありません。

このように建設業界では「外注」と「内製」の両方のメリット・デメリットを比較しながら業務ごとの最適な体制構築を模索する動きが加速しているのです。

 

内製化と外注、それぞれの基本と違い

建設業における業務体制の最適化を考える際、まず押さえておきたいのが「内製」と「外注」の基本的な違いです。

両者の特徴を理解することで、業務ごとの最適な運用方針を立てる土台が整います。

内製とは?

内製とは、設計や施工管理、積算、現場監督などの業務を外部に委託せず、自社の社員・チームで完結させる体制のことです。

最大のメリットは、業務遂行におけるノウハウが社内に蓄積され、継続的なスキル向上や品質の安定化につながる点です。

現場での改善提案やトラブル対応の柔軟性も高く、顧客満足度の向上にも寄与します。

また、社員同士の密なコミュニケーションにより、設計と現場、営業部門との連携も取りやすくなり、スピーディーな意思決定や変更対応が可能になります。

施工品質や工期管理、コスト意識など、全体のマネジメント力が強化されることも、内製化の大きな魅力です。

ただし、内製には人材採用・育成という課題が伴います。

高い技術力と現場対応力を持った人材の確保は簡単ではなく、長期的な視点での投資が求められます。

また、突発的な案件や繁忙期に対応できる柔軟性には限界があるため、業務量の波に対する戦略的なリソース配分も欠かせません。

外注とは?

外注とは、社内リソースで担いきれない業務や専門性の高い分野について、社外のフリーランスや企業に委託する方法を指します。

設計や施工図作成、現場監督業務なども外注で対応するケースは増えており、柔軟なリソース活用が可能になります。

最大の利点は、短期間で必要なスキルや労働力を確保できる点です。

特に繁忙期や大型案件など、一時的に人員が不足する場面では、外注によって社内人材をコア業務に集中させることができます。

また、最新技術やトレンドに詳しい外部のプロフェッショナルを活用することで、業務の質を高めることも可能です。

一方で、外注のデメリットとしてはノウハウが社内に蓄積されず、業務のたびに再教育や再契約が必要になることが挙げられます。

また、指示や共有ミスによる手戻り契約内容の不備によるトラブルも起こり得るため、発注側のマネジメント能力も求められます。

建設業における外注活用は、コストの最適化だけでなく、品質・納期管理の観点からも重要な選択肢です。

戦略的に内製と組み合わせることで、より強い組織運営が可能になります。

 

現場監督・設計業務での「外注」と「内製」判断基準

建設業における現場監督や設計といった中核業務については、どこまでを自社で行い、どこからを外部に任せるかの判断が経営上の重要な分岐点となります。

ここでは、その判断基準を具体的に解説します。

判断基準①コスト構造から考える

最も基本的な判断軸は「コスト構造」です。

外注には人件費や管理費といった購入費用が発生しますが、一見すると単価が高く見えても、内製に必要な固定費(採用・教育・労務・設備投資など)を考慮すると、結果的に外注のほうが安価になるケースもあります。

例えば、設計業務を内製化する場合、自社内にCADオペレーターや建築士など専門スキルを持った人材を採用・育成し続けなければなりません。

さらに、繁閑差による業務の波を抱えることで人件費の平準化が難しくなり、コストの無駄が生じることもあります。

一方で外注は繁忙期や限定業務に絞って利用できるため、変動費としてコントロールしやすく、損益分岐点を抑えるのに有効です。

ただし、価格だけで判断すると、品質や対応スピードにばらつきが出るリスクもあるため、コストと成果のバランスを見極めることが重要です。

判断基準②社内にノウハウを蓄積すべきか

内製を選択する大きな理由の一つに「ノウハウの蓄積」があります。

特に現場監督のように現場ごとの状況判断や施主との信頼構築が必要な職種では、社内でノウハウを共有・継承していく体制が長期的には事業の安定と競争力につながります。

たとえば設計段階で得られたフィードバックを、施工時に即座に反映するには、社内での横断的な連携と意思決定の速さが不可欠です。

これは内製体制だからこそ可能なフローであり、外注ではこのスピード感が損なわれる可能性があります。

ただし、ノウハウを蓄積するには長期的な視点で人材育成と教育体制の整備が求められ、短期的にはコストもかかります。

現場経験の浅い社員が戦力化するには一定期間が必要であり、即戦力が必要な状況では外注のほうが合理的な場合もあるでしょう。

そのため、「この業務を5年後も自社の中核としたいか」「独自性を出したいか」といった経営視点からの検討が判断の鍵になります。

判断基準③業務の標準化・再現性の有無

外注と内製の適正を見極めるうえで、業務の「標準化」「再現性」も大きな判断材料になります。

再現性の高い業務、すなわちマニュアルや仕様書通りに進行できる業務は外注に向いています。

一方で、現場ごとに判断が必要な業務や、顧客対応を伴う業務は内製化に適しています。

たとえば、基本設計後の構造計算や施工図作成といったルーチン性の高い作業は外注しても問題が少なく、コストも抑えやすいです。

逆に、施主との打ち合わせや現場監理のように臨機応変な対応が求められる業務は、自社で把握・判断できる内製体制のほうが信頼性も高まります。

また、設計と施工が分断されている企業においては、業務プロセスの分業体制が進んでおり、分業化されている工程ほど外注化しやすい傾向があります。

業務の属人性が強い工程については、マニュアル整備や教育制度が不十分な場合、外注により品質が不安定になるリスクもあるため注意が必要です。

したがって、業務の性質ごとに「誰でも再現できる作業か」「判断を伴うか」を明確にし、それに応じて外注・内製を戦略的に切り分けていくことが必要です。

 

内製化が有効な場面とは?建設業における具体例

建設業における内製化は単なるコスト戦略ではなく、品質の安定化や企業競争力の強化につながる有効な手段です。

ここでは、内製化が特に成果を上げやすい代表的な場面を具体例とともに紹介します。

品質管理の向上と顧客満足の直結

建設業では、顧客との信頼関係を築くうえで「施工品質の確保」は何よりも重要です。

現場監督業務や施工管理を内製化することで、品質への責任意識が社内で共有され、細かな仕様変更や現場での判断にも即座に対応できます。

たとえば、設計通りに現場が進行しているかを日々チェックし、必要があれば社内の設計部門と密に連携し修正するといった体制は、外注では実現が難しい部分です。

また、顧客からの質問や変更依頼にも内製体制であれば即応でき、顧客満足度の向上に直結します。

外注では工程ごとに確認・調整のタイムラグが生じやすく、それが品質のばらつきや顧客不信につながることもあります。

さらに、検査や施工後のアフターサービスなど長期にわたる信頼維持の工程でも、内製であれば一貫した対応が可能です。

「誰が施工したか」「なぜこの仕様になったか」といった背景まで社内で把握できていることは、トラブル時の迅速な対応にもつながります。

特に、顧客対応を重視する中小の地域密着型建設会社では、内製化が大きな武器となる場面が多いと言えるでしょう。

コスト削減と社内ノウハウの蓄積

建設業においては、単に外注費を削減するという目的だけでなく、将来的な経営体力の強化という観点からも内製化が有効に働きます。

特に設計や積算業務を内製化することで、外注依存による価格の不透明さを排除し、原価管理の徹底が可能になります。

たとえば、設計業務を内製化すれば、自社の工法や得意な施工パターンを前提とした図面を作成でき、施工効率が大幅に向上します。

これにより工期短縮や資材ロスの削減にもつながり、トータルでのコストダウンが見込めます。

また、施工現場で得た知見を設計段階にフィードバックできる体制をつくることで、精度の高いプランニングが実現し、結果として利益率も安定します。

さらに、社内でノウハウを蓄積することは、技術的な差別化を図るうえでも重要です。

独自の工法や提案力を育てることで、競合他社との明確な違いを打ち出せますし、職人の技術継承にもつながります。

とくに中長期的に安定した経営を目指す建設会社にとって、社内に技術が残る内製体制は不可欠な要素と言えるでしょう。

このように、内製化は一時的なコスト削減策ではなく、経営の質そのものを引き上げる長期戦略のひとつです。

人材の採用・育成コストが一時的に発生したとしても、将来の競争力と収益性を考えれば、その投資は十分に回収可能だといえます。

 

外注を活用すべきケースとその注意点

建設業において外注の活用は、人材確保や専門性の担保など、事業を円滑に進めるうえで欠かせない選択肢です。

ただし、場当たり的な外注はコスト増や品質低下につながるリスクもあります。

ここでは、外注を効果的に活用すべきケースと、留意すべきポイントを解説します。

人材が一時的に不足している場合

繁忙期や突発的な案件対応で自社の人手が足りなくなる場合、外注は非常に有効な手段です。

特に現場監督や施工管理などの実務系業務は、スケジュール遅延が直接的に損失につながるため、タイムリーな人材補填が不可欠です。

例えば、年度末の引き渡し集中や大型案件が重なった場合、自社社員だけでは対応しきれない場面が多くなります。

そうしたときに、実務経験のある外部パートナーを確保できていれば、納期遅延や品質低下を回避できます。

ただし、このような一時的な外注でも、選定は慎重に行う必要があります。

過去の実績や同業他社での評価、コミュニケーション能力、契約条件の明確化など、事前の見極めが重要です。

特に安全管理や法令遵守が求められる現場業務では、信頼できる外注先でなければ逆にリスクが増す可能性があります。

また、外注先の労務状況や保険加入状況の確認も怠ってはいけません。

元請としての責任を負う立場である以上、下請業者の労働環境にも目を光らせる必要があります。

一時的とはいえ、共に現場を支えるパートナーとして、信頼関係の構築を意識しましょう。

専門性の高い分野や新規事業への対応

建設業は多岐にわたる専門領域を内包しており、すべてを自社で内製するのは現実的ではありません。

特に、省エネ住宅設計、BIM(Building Information Modeling)対応、構造解析などの高度な専門性が求められる業務では、外注の活用が効果的です。

例えば、従来の木造住宅施工が主流だった会社が、新たにRC造やS造案件を受注した場合、社内にはまだ対応できる人材や設備が整っていないケースもあります。

そうした状況では、専門知識と経験を持つ外注先に協力を仰ぐことで、短期間で成果を出すことができます。

また、新規事業の立ち上げ時にも外注は有効です。

社内のリソースが通常業務で手一杯な状態では、新規領域に人員を割く余裕はありません。

そのため、最初の立ち上げフェーズは外部に任せ、業務が安定してきた段階で徐々に内製化を進める、という段階的なアプローチが現実的です。

ただし、外注先に完全に依存してしまうと、自社にノウハウが蓄積されず、継続的な改善やコストコントロールが難しくなります。

新規事業の成功後を見据え、業務フローの見える化や知識の社内共有を進めておくことが大切です。

さらに、専門性の高い分野では、外注先の選定が業績を左右するほど重要になります。

最新技術の理解度、実績、ライセンスの有無、トラブル対応力などを事前に確認し、単なる“外注先”ではなく“技術パートナー”としての関係を築く意識が求められます。

 

職人・技術者不足の中での「内製化」の進め方

深刻な人材不足が続く建設業界では、内製化を進めるにも「人材の確保」が最大の壁になります。

ここでは、限られた人員で内製体制を築くための具体的な進め方や工夫を解説します。

自社職人の採用と育成戦略

内製化を実現するうえで欠かせないのが、自社で職人・技術者を確保し、継続的に育成していく体制の構築です。

採用段階では、経験者の即戦力採用と並行して、若手の未経験者を受け入れ、長期育成する方針が重要です。

特に地域密着型の中小建設業者にとっては、地元の若者をターゲットとした職業体験会や、高校・専門学校との連携による採用活動が効果的です。

育成においては、単なるOJT(現場任せ)ではなく、カリキュラム化された研修制度や先輩職人によるメンター制度を整えることで教育効率が上がり、離職率の低下にもつながります。

また、資格取得支援や職能評価制度を導入することで、職人としてのキャリアビジョンを明確に示し、モチベーションの維持にも寄与します。

人材育成は短期間で成果が出るものではありませんが、企業として中長期的な視点で「人を育てる文化」を根付かせることが最終的には持続可能な内製化へとつながります。

採用・育成に投資することで、結果として外注費削減・品質安定といった大きなリターンが得られるのです。

属人化を防ぐ業務マニュアルと仕組みづくり

人材が限られている状況では、特定の個人に業務が集中する「属人化」のリスクが高まります。

属人化は、技術継承が進まないだけでなく、突然の退職や休職によって現場が回らなくなるリスクも孕んでいます。

内製化を成功させるには職人一人ひとりのスキルに頼りすぎず、業務全体を仕組み化・標準化することが不可欠です。

具体的には、業務のフローや手順を可視化した「施工マニュアル」や「チェックリスト」を整備し、誰が現場に入っても同じ品質を担保できる状態を目指します。

マニュアルは紙だけでなく、動画や写真付きのクラウドツールを活用することで若手にも理解しやすくなります。

また、BIMや施工管理アプリなどのITツールを活用すれば、業務の進捗や品質チェックも一元管理でき、限られた人員で多現場を同時に把握することも可能です。

こうしたツール導入も「人がいないから内製化できない」という悩みを解決する一手になります。

属人化を排し、チームで仕事を進める仕組みをつくることは、長期的に見て人材の定着にもつながります。

ひとりに過度な負担がかかる職場環境では、若手は定着しません。

業務の標準化は、育成のしやすさ・離職率の低下・品質の安定という複数のメリットを生む内製化における基盤づくりの要となります。

 

外注と内製のハイブリッド戦略が建設業の未来を変える

急激な人材不足や技術継承の課題を抱える建設業界において、「外注」と「内製」を両立させる“ハイブリッド戦略”が注目を集めています。

この戦略は、両者のメリットを活かしながらリスクを分散し、持続可能な経営を実現する鍵となります。

自社の強みに集中し、外注で弱点を補う

建設業では、すべての業務を自社で内製化するのは現実的ではありません。

だからこそ、自社の強みを見極めて「選択と集中」を図ることが重要です。

たとえば、自社で施工管理力や品質保証体制に強みがある場合は、これをコア業務として内製化し、労務集約的な作業や一時的な人手不足を補う業務は外注に任せるという判断が有効です。

また、施工の中でも「得意とする工種」と「不得意な工種」が存在するのが通常です。

自社職人が得意とする分野は内製で高品質を維持し、ノウハウの少ない分野は外部の専門業者に依頼することで、無理のない体制が整います。

このように、業務ごとに“自社でやるべきこと”と“外部に任せるべきこと”を明確化し、それぞれの役割分担を最適化することが、ハイブリッド戦略の第一歩です。

結果として、無理のない人員配置、品質の安定、コストの抑制につながり、競争力を維持することが可能になります。

ハイブリッド体制で変わる人材戦略と経営判断

外注と内製のバランスをとるハイブリッド体制では、人材戦略や経営の意思決定プロセスも大きく変化します。

特に人材採用においては「全員正社員でまかなう」という従来の発想から脱却し、プロジェクト単位で柔軟に人材を配置する思考が求められます。

具体的には、自社で育てるべき職人は長期的な視点で採用・育成を行い、急な増員や専門性の高い業務については信頼できる協力業者やフリーランスの活用を検討します。

このような体制であれば案件ごとに最適なリソースを柔軟に調整でき、余剰人員を抱えるリスクを避けつつ欠員の不安も軽減されます。

さらに、経営判断のスピードも重要です。受注増加に対応するための外注先確保や、内製部門の能力向上に向けた設備投資など的確な判断が求められます。

そのためには現場と経営層の密な情報共有、KPIに基づく数値管理、外注・内製それぞれのコストと効果の見える化が欠かせません。

ハイブリッド戦略を成功させるには「外注か内製か」という二者択一の発想ではなく、「両方をどう組み合わせて最大成果を出すか」という柔軟な発想が求められます。

多様な働き方とリソースを活用する経営が、建設業の未来を支える基盤となるのです。

 

まとめ

今回の記事では、外注、内製化について解説しました。

コストや人材状況、業務の重要度を比較し、自社の強みを活かせる業務は内製化し、それ以外は信頼できる外注先を選定する判断が重要です。

状況に応じた最適な体制を構築しましょう。