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建設業の未来を読むPEST分析の進め方とは?

建設業は政治や経済の影響を受けやすく、急な制度改正や景気変動に翻弄されがちです。

先を読んだ経営戦略を立てたいと思っても、何から始めればよいか悩んでいる方も多いはずです。

そこで、今回は建設業に特化したPEST分析の進め方と活用法について解説します。

この記事を読めばPEST分析を使って建設業界の変化を読み取り、将来を見据えた戦略立案のヒントがわかるので、ぜひ最後まで読んで学んでください。

そもそもPEST分析とは?

PEST分析とは、外部環境を「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点から整理するフレームワークです。

建設業のように外的要因に強く左右される業界においては、今後の経営や事業方針を考える上で欠かせない分析手法です。

PEST分析の基本:Politics/Economy/Society/Technology

PEST分析は、企業が自社の経営環境を把握するために使われる代表的なフレームワークの一つです。

以下の4つの切り口で外部環境を分類し、変化の兆しや潜在的なリスク・機会を見極めるのが目的です。

カテゴリ 内容 建設業での具体例
Politics(政治) 法規制、税制、補助金制度、外交関係など インフラ整備への国の予算配分、建設業法の改正
Economy(経済) 景気動向、金利、物価、為替、建設資材価格など 資材費の高騰、公共投資の増減、金利上昇
Society(社会) 人口動態、働き方の変化、価値観の多様化など 少子高齢化、建設業の担い手不足、SDGs意識の高まり
Technology(技術) 技術革新、IT化、自動化など BIM/CIMの導入、建設DX、ドローン測量

建設業界はこれら4つの視点すべてにおいて影響を受けやすいため、経営判断の精度を高めるうえでPEST分析の活用は有効です。

特に、事業継続計画(BCP)や中長期の投資判断に役立つ情報を抽出できる点が重要です。

SWOT分析や3C分析との違い

PEST分析と並んで用いられるのがSWOT分析や3C分析ですが、それぞれの目的と活用範囲には違いがあります。

SWOT分析は「自社の強み・弱み」と「外部の機会・脅威」を整理し、戦略を立てるための手法です。

一方、3C分析は「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3視点で市場を分析し、マーケティング戦略に落とし込むために使われます。

PEST分析はこれらのフレームワークの前段階で使用されることが多く、主に「外部環境の変化を広く俯瞰する」ために用いられます。

つまり、PEST分析はマクロな視点、SWOTや3Cはミクロな視点という位置づけです。

建設業においては、PEST分析で外部要因を把握した後に、自社の強みや事業機会と照らし合わせてSWOT分析につなげると、より実践的な戦略を策定できます。

外部環境を把握することで「先を読んだ経営」が可能に

PEST分析を導入する最大のメリットは、「変化に対する先読み」ができることです。

たとえば、政府が脱炭素社会を推進しているという政治的要素をいち早く捉えることで、環境配慮型の建材や工法にいち早く取り組むきっかけになります。

また、技術革新に関しても、ドローンや3D測量、AIによる工程管理といった動きにいち早く対応することで、人手不足という社会的課題を乗り越えるヒントが見えてきます。

つまり、PEST分析は現状の把握だけでなく、未来の変化を予測し、自社が取るべきアクションを先取りする経営判断を後押しするのです。

特に建設業のように、政策や経済に大きく左右される業界にとって、PEST分析は競争優位を築くための起点となります。

 

建設業界におけるPEST分析の重要性

建設業界は、人口動態の変化や技術革新、政府の政策、世界経済の影響を強く受ける業種です。

PEST分析によってこうした外部要因を多角的に整理することで、経営判断の質を高め、将来のリスクやチャンスに戦略的に備えることが可能になります。

少子高齢化や人手不足が深刻化(S要因)

建設業界では、社会的要因(Society)として「少子高齢化」と「若年層の業界離れ」による人材不足が大きな課題となっています。

国土交通省のデータによると、建設業就業者のうち55歳以上は35.2%を占める一方、29歳以下は11.5%にとどまっており、世代交代が進んでいません。

このような社会的変化は、業界の持続可能性や競争力に直結します。

技能継承が進まず、現場の生産性が低下する恐れがあるため、企業は早期に対応策を講じる必要があります。

具体的には、外国人材の受け入れ拡大、若手人材の確保に向けた職場環境の改善、ITや機械化による省人化の推進などが挙げられます。

PEST分析を通じてこうした社会的トレンドを把握することで、採用や教育体制の見直しといった戦略的な取り組みが可能になります。

再生可能エネルギーやGXが市場を拡大(T要因)

技術的要因(Technology)として注目されているのが、再生可能エネルギーの導入拡大とグリーントランスフォーメーション(GX)の流れです。

脱炭素社会に向けた国際的な圧力が強まる中、太陽光発電設備や蓄電池、断熱材、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)対応の建物の需要が高まっています。

建設業にとって、これらは単なるコスト増ではなく、新たな成長市場としての機会です。

たとえば、環境配慮型の公共施設の設計・施工を受注できれば、企業イメージの向上とともに収益基盤の強化にもつながります。

また、建設現場におけるICT・IoT活用やBIM(Building Information Modeling)による設計の最適化も進展しており、これらの技術革新にどう対応するかが競争力の鍵となります。

PEST分析によってこれらの動向を早期に掴み、自社の技術戦略に反映させることが重要です。

公共投資の縮小と都市再開発の偏在(P要因)

政治的要因(Politics)として、公共投資の抑制と、都市部への再開発予算の偏りが挙げられます。

政府は近年、人口減少に伴うインフラ維持費の圧縮や財政健全化を背景に、地方の公共事業への支出を抑制する傾向にあります。

一方で、大都市圏では再開発プロジェクトが活発化し、建設需要が局所的に集中しています。

こうした政策の変化は、地方建設会社と都市部建設会社の業績格差を拡大させる可能性があります。

PEST分析を通じて、自社が依存するエリアや案件の政策的背景を分析することで、依存リスクを見直し、官民連携プロジェクトへの参画や都市部市場への参入準備など、新たな動きへの対応がしやすくなります。

特に中長期視点でのエリア戦略や案件選定において、政治的要素の可視化は極めて有効です。

建材価格・原油価格の高騰(E要因)

経済的要因(Economy)として無視できないのが、資材価格や原油価格の高騰です。

ロシア・ウクライナ情勢や円安の影響など、国際的な要因が重なり、鉄鋼・木材・セメントなどの建材価格は上昇傾向が続いています。

また、建設機械の燃料である軽油やガソリンの価格も高止まりしており、施工コストを圧迫しています。

価格転嫁が難しい公共工事を多く抱える中小建設会社にとっては、利益率の大幅な低下を招く深刻な問題です。

PEST分析を活用すれば、こうした経済的リスクの把握にとどまらず、原材料の共同調達や省エネ工法への切り替え、コスト管理体制の強化といった対策を講じる根拠を得ることができます。

価格変動を予測・対応するためには、為替や国際市況といった外部情報を常にウォッチし、自社の事業戦略に反映させる仕組み作りが欠かせません。

建設業は外部要因の影響を受けやすい業種である

建設業界は、他業界と比較して外部環境の影響を特に強く受ける業種です。

理由としては、公共性の高いプロジェクトを多く扱うこと、施工現場が地域や政策に大きく依存すること、資材・労働・天候といった多くの外部変数に左右されることが挙げられます。

そのため、PEST分析を活用して定期的にマクロ環境をチェックすることが極めて重要です。

新たなチャンスを見つけることはもちろん、事業継続リスクの早期発見にもつながります。

分析結果は、経営戦略の立案だけでなく、事業提案書や融資資料、行政との交渉材料など幅広い場面で活用できます。

「変化に耐える」だけでなく「変化を活かす」建設業を目指すには、PEST分析による継続的な外部環境チェックが欠かせないのです。

 

建設業向けPEST分析の具体例【2025年版】

2025年の建設業界を取り巻く外部環境は、政治・経済・社会・技術の各側面で大きな変化を見せています。

PEST分析を活用し、最新の動向を具体的に把握することで、企業は将来を見据えた戦略を立てることが可能になります。

P:政治(Politics)

建設業界における政治的要因の一つが、インフラ老朽化への対策としての国土交通省の施策です。

2024年度より老朽化した橋梁や上下水道などのインフラを対象に補修・更新を促進する補助金が拡充され、地域建設会社にとっては新たな受注機会となっています。

また、防災・減災・国土強靭化政策に基づく長期的な投資が継続される見込みで、安定的な需要が期待されます。

さらに、外国人労働者の受け入れ政策にも変化があります。

2025年には「特定技能2号」制度の対象職種が建設業にも広がり、長期就労が可能となったことで、深刻な人材不足の緩和に寄与すると見られています。

これにより、人材の確保や技能実習からのキャリアパス設計など、多様な人材戦略が求められます。

建設業界にとって政治的要因は、事業機会の創出と同時に、制度対応力が企業の競争力を左右する重要な領域となっています。

E:経済(Economy)

2025年現在、建設資材の価格は引き続き高止まりの傾向にあります。

鉄筋や生コン、合板などの主要建材は、世界的な物流のひっ迫やエネルギー価格の高騰の影響を受け、価格上昇が継続しています。

さらに、円安の影響も加わり、輸入建材や機材のコストが企業収益を圧迫しています。

一方で、不動産市場においては住宅着工件数が鈍化しています。

特に地方都市では人口減少や住宅需要の低下が顕著で、新築工事よりもリフォームや改修工事の需要が増加傾向にあります。

経済的要因は、コスト構造の見直しと収益モデルの転換を迫る要素であり、企業は資材調達の見直し、価格交渉力の強化、収益多様化の取り組みが求められます。

S:社会(Society)

建設業界では、深刻な担い手不足と高齢化の問題が続いています。

2025年時点でも、全産業平均と比較して建設業の高齢化率は依然として高く、現場の技能伝承や安全管理の面で大きな課題を抱えています。

新卒の入職者数も伸び悩んでおり、業界全体で働き方改革や処遇改善が急務です。

加えて、カーボンニュートラルやSDGsへの対応が社会的要請として強まっています。

建設資材の環境性能(リサイクル率・CO2排出量)や現場のエネルギー効率が重視され、企業には持続可能な施工プロセスの導入が求められています。

ESG評価を重視する発注者や金融機関からの選別も進んでおり、社会的責任への対応は今や企業価値に直結する経営課題です。

こうした動向をPEST分析で俯瞰することで、企業は採用戦略から施工方法まで、より一貫性のある方針を立てやすくなります。

T:技術(Technology)

2025年の建設業では、技術革新が急速に進んでいます。

BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)の活用が本格化し、設計から施工、維持管理までの一元的な情報共有が可能となりました。

これにより、作業効率の向上やミスの削減が実現しつつあります。

また、ドローンを活用した測量や進捗管理、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環としてのクラウド施工管理、電子黒板や遠隔臨場の導入も広がっています。

さらに、AIによる施工シミュレーションや、IoTセンサーによるリアルタイムの安全管理といった先端技術の導入も進みつつあります。

こうした技術の進展は、生産性向上だけでなく、若手技術者の定着促進にもつながる可能性があります。

以下は、2025年の主な技術導入の状況を整理した表です。

技術領域 具体的技術 期待される効果
BIM/CIM 3D設計・施工管理 工期短縮、施工ミス削減
ドローン・IoT 測量・安全管理・進捗管理 現場の効率化・事故防止
AI・建設DX 工程最適化・人員配置 業務効率化・コスト削減

このように、技術的要因の把握は業務の効率化だけでなく、採用戦略や企業イメージの刷新にもつながります。

PEST分析を通じてこれらの技術革新の方向性を読み解くことで、企業は自社の競争力を高める確かな判断材料を得ることができます。

PEST分析を活かした建設業の戦略立案

PEST分析は外部環境の変化を把握するだけでなく、次の一手を考えるための土台にもなります。

ここでは、PESTからSWOT分析への展開、機会発見への活用、具体的な戦略事例、新規事業への応用について解説します。

PEST分析→SWOT分析へとつなげる

PEST分析は、政治(P)、経済(E)、社会(S)、技術(T)の4つの視点から外部環境を網羅的に整理する手法です。

しかし、外部環境を把握しただけでは戦略にはつながりません。

実務では、PEST分析の結果をSWOT分析(Strengths、Weaknesses、Opportunities、Threats)につなげ、内部資源と組み合わせて戦略の方向性を導き出す流れが有効です。

たとえば、「再生可能エネルギーの需要増(T要因)」という外部の機会に対して、自社が「省エネ施工技術に強みを持つ(S要因)」のであれば、それを活かして新たな建築案件を獲得する戦略が考えられます。

逆に、「担い手不足の進行(S要因)」と「高齢化した自社の技能者構成(W要因)」が組み合わさると、将来のリスクとして対策が急がれます。

このように、PESTで外部要因を抽出し、それをSWOTの「機会」や「脅威」に位置付けることで、自社の内部状況と結び付けた具体的な戦略へと昇華することができます。

なお、SWOT分析については以下の記事で詳しく解説しています。

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「リスク回避」だけでなく「機会発見」にも活用

PEST分析は「リスクの把握」だけにとどまらず、「ビジネスチャンスの発見」にも有効です。

建設業は景気変動や制度変更の影響を受けやすいため、外部リスクに敏感な体制が必要ですが、それ以上に重要なのは変化をチャンスと捉えて事業成長の糸口を探る姿勢です。

たとえば、「政府によるカーボンニュートラル推進政策(P要因)」は一見、対応コストがかさむリスクとも捉えられますが、一方で「環境配慮型建材市場の成長」というビジネス機会として捉えることもできます。

同様に、「建設DXの推進(T要因)」も、デジタル技術を活用した新しいサービス開発のチャンスになります。

このように、PEST分析は脅威を回避するだけでなく、「どの変化をビジネスチャンスとして活かせるか?」という視点を持つことで、成長戦略のヒントに変えることが可能です。

特に変化が激しい時代においては、環境分析を静的なデータ整理に終わらせず、動的にビジネスに結び付けていく姿勢が重要です。

新規事業検討におけるPESTの有効性

PEST分析は、既存事業の見直しだけでなく、新規事業を検討する際にも非常に有効なツールです。

特に建設業のように規制や制度の影響が大きい業種では、立ち上げ初期に外部環境を正確に把握することが事業の成否を左右します。

たとえば、脱炭素分野への新規参入を検討する際、「GX(グリーントランスフォーメーション)政策の進展(P要因)」、「環境建材の需要増(E要因)」、「環境意識の高まり(S要因)」、「LCA分析技術の進化(T要因)」といった外部要素を事前に整理することで、将来性や課題、必要な投資領域を明確にできます。

また、PEST分析を通じて、現行法規との整合性、補助金制度の活用可能性、競合の技術動向なども可視化されるため、より現実的かつ実行可能な事業計画を描くことが可能になります。

このように、PEST分析は単なる分析手法ではなく、意思決定の質を高めるための「戦略設計の入口」として位置付けるべきものです。

特に新規事業では、早い段階での外部環境の整理が、事業の持続可能性と成長性を左右する重要な要素となります。

 

まとめ

今回の記事では、建設業におけるPEST分析について解説しました。

建設業は外部環境の影響を強く受ける業界であり、PEST分析を通じて変化を先読みし、柔軟な経営戦略を構築することが重要です。

未来を見据えた経営判断にPEST分析を活かし、自社の強みを最大限に発揮できるよう準備を進めましょう。

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